小説

小説「フィルター」③

何一つ生み出さない時間が流れていく中、変化したことといえば、少女との距離が縮まり、彼女の口数が増えたことくらいであった。強いて付け加えるならば、クロは少し大きくなったような気がした。 慣れとは恐ろしいもので、平和な病院生活には嫌気がさしてき…

小説「フィルター」②

幾日もが過ぎ去り、病院に週1回の頻度で通うのが日常となってきた。実をいうと僕はこの症状には大して固執していなかった。人生にとっての大きな害にもならない上に、慣れればそこまで不都合を感じない。ただ、母は心配していたようで、「早く治るといい」と…

小説「フィルター」①

人間が能力を身に付けるということは、何かを忘却することに等しいらしい。例えば、赤ん坊は世界中の言語の音を聞き分けられるそうだ。だが、母国語しか話されない環境の中に居続けることで、母国語で使用される音以外は忘却されてしまう。これが、1つの言…