近年のPCKに関わる研究の動向と理科授業【その2】

 

前の記事の続きです。

 

stellanoxte.hatenablog.com

 

そしてPCKはどうなった

 これだけPCKについての見解が分かれていると、「PCKって結局何なのだろう?」「こんな定義がバラバラで研究になっているのかなあ?」といった感想をどんな人でも持っているのではないかなと思います。

 

 2007年にアベル(Abell)さんが、今までのPCK研究についてどんなことが行われていたのかを論文として発表しました。その論文の中では、今までのPCK研究について「一貫性がない」「見解が分かれている」といったことが主張されていました。また、これまでのPCK研究は「科学以下」であるとまで評していました。科学者に対して「これまでにやってきたことは科学以下だ」というのだからかなりの酷評ですね。

 

 そして翌年2008年、アベルさんは、PCKをより一貫した概念として扱うために、PCKの4つの重要な側面を明らかにしました。

 

①PCKは、独立した知識のカテゴリーである

PCKはわかりやすく教えるための知識だから、科学の知識や教育学の知識などととても近い知識ではあるのですが、ほかの知識とは独立したものだと考えられます。

磁石について教える例を使って「科学の知識」「教育学の知識」「PCK」と順を追って説明していこうと思います。

例えば、磁石について小学生に教えたい時、磁石について知っている必要があります。「S極同士、N極同士は退け合い、S極とN極は引き合う」「N極は北を向き、S極は南を向く」「磁石の種類によって磁力の強さが違う」「磁石は加熱すると磁力を失う」などなど…。このように科学の知識(教えたい内容に関する知識)は重要です。

しかし、極端な話、「教え方」を知らなければ、自分の知っていることを直接伝えることしかできません。それまで磁石を見たこともなかった子供に「磁石はくっついたり離れたりするんだよ!」と言ってもおそらくわかってくれないでしょう。

そこで「教育」に特化した知識、「教育学の知識」が必要になってきます。これは、科学、国語、数学、歴史、音楽などの分野に関係なく、全ての分野に関する教育の知識です。「子供が自主的な姿勢で取り組む方が、理解が進みやすい」「実物を見たり、体験したりする方が納得しやすい」「子供同士がお互いに意見交換しながら学習をする方が物事を捉える視野が広がりやすい」などでしょうか。

ただ、こちらも極端に言えば、教育のプロだとしても知らないことを教えるのは無理難題です。私たちの記憶から磁石に関する記憶だけを消されたとすると、「磁石について教えてよ!」と言われても、それは不可能でしょう(極論)。

そこで、実際に教える場合には「科学の知識」や「教育学の知識」などを文脈に合わせて変換するための知識が必要です。先ほどの「科学の知識」と「教育学の知識」の説明の中であげた例を使おうと思います。

例えば、「S極同士、N極同士は退け合い、S極とN極は引き合う(科学の知識)」を教える上で「実物を見たり、体験したりする方が納得しやすい(教育学の知識)」と考えた場合、その人は「じゃあ実際に棒磁石を子供に渡して実験したらいいんだ」と考えるかもしれません。このように「わかりやすく物事を教える上でのほかの知識の変換」に関わってくる知識を「PCK」として他の知識とは切り離して考えようというのが、1つ目のPCKの性質です。

ここには「教育の文脈に関する知識」などもかかわってくるので、例に挙げたように「科学の知識」と「教育学の知識」だけが関わるわけではありません。ですのでお話が進むともうちょっと複雑になってきます。それはまたの機会にお話しできればと思います。

 

②PCKは、個別の知識要素で構成されている

PCKは個別の知識要素で構成されていると考えられるようです。鶏肉(変換前)を唐揚げ(変換後)にしようとも、変換のために必要な油や塩や醤油がなければ変換は難しいですよね。変換のための知識(PCKの中の知識)には「どのように指導していくかという戦略に関する知識」や「わかりやすく表現するための知識」、「子供たちが前に何を勉強してきたか、この先に何を学習していくかの知識」、「できたかどうかをどうやって確かめるかの知識」など、様々な知識が関わってきます。

実際に教える・授業をするときには、これらの知識は組み合わせて使われたり、影響を与え合ったりすると考えられます。

 

③PCKは、経験により育っていく

 授業では、実在する子供が相手になるため、頭の中で「これやって、あれやって、それから最後にこれやったら、どんな子供でも完全に理解するでしょ。」というのは成立しません。厳しいですね。

 じゃあ「どうしたら、PCKが育っていくの?」というと、経験とともに育っていくと考えられています。実際に子供に教えてみて、「この教え方よかったなあ」「これいけると思ってたけど意外とダメなんだなあ」とか。さらに言えば、「この教え方、Aくんみたいな子供にはすごく効果があるけど、Bちゃんみたいな子供はすごくわかりにくそうだったなあ」とか。教育の経験を通して、わかりやすく教えるための知識が身についていくと考えられています。

 

④(キリが悪いけど長くなるので次の記事で。)

 

 

「多重夢」のミュージックビデオが、本日2月19日(土)の22時よりYouTubeで公開スタート。ぜひチェックしてください。


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