近年のPCKに関わる研究の動向と理科授業【その4】

この記事は、近年のPCKに関わる研究の動向と理科授業【その3】の続きとなります。

 

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これまでのおはなし

これまでの記事でPCK(Pedagogical Content Knowledge)がどんな風に成立してきたのか、議論されてきたのかを書いてきました。ここからは過去15年くらいに絞って、実際の研究でどのように使われてきたのかを書いていきます。

 

過去15年のPCK研究(大体)

 PCKの枠組みを研究は世界各地で行われてきました。つまり、世界中(日本でも、アメリカでも、アフリカでも、ヨーロッパでもどこでも)の科学教育研究でPCKという概念は一般的に知られていることが分かります。

 これまでのPCK研究に参加している学校の先生は、1年目の新人さんから、ベテランの先生までの様々な経験の長さの先生、小学校の先生から高校の先生まで、様々な学年の先生が研究されています。

 その一方で1つの研究で対象としている学校の先生は、10人未満のものが多いです。テレビ番組のような「100人にアンケート!」みたいな感じでたくさんの教師のPCKを一気に調査している研究はとてもとても少ないです。また、扱っている「トピック(PCKのテーマ)」の広さが研究によって異なっています。「化学の化学平衡」「物理の電気」などを扱った研究もあれば、「科学の本質」「システム思考」など、思考をトピックとして扱ったより広い内容のトピックもあります。近年の研究を見ても、研究によってトピックの広さの定義に明らかな違いがあることが分かります。

 

PCKの研究内容

PCKに関しては下の5つの種類の研究が主にされてきました。

①科学教師のPCKの性質

 教師がどんなPCKを持っているのか?ということを調べる研究です。先生たちの知識の実態を知るためで重要になってきます。

②科学教師のPCKの開発

 教師のPCKをどうやったら伸ばしていけるのかを調べる研究です。学校で先生たちがどんな研修をしていけば効果的か、大学や教育実習でどういう授業や取り組みをしていけば授業が上手な先生になるのかを知るためのヒントになる可能性がありますね。

③PCKと他の概念との関係

 PCKが実際にどんなものに影響を与えているかを調べる研究です。「PCKが変わると教師の信念が変わるのだろうか」とか、「PCKが変わると生徒の成績が変わるのだろうか」とか、そういう感じです。

④介入によるPCKの変化

 実際に「PCK向上プログラム」(具体的な方法や学習コース)を作って、どれだけ効果があったのかを調べる研究です。プログラムの前と後で、教師のPCKがどう変わったかを調べることで、プログラムの効果を調べます。

⑤PCKの測定方法の開発

 PCKをどうやって調べればいいのか、その方法を作り出す研究です。どのようにPCKを調べると信頼性が高いといえるのか、研究者の中で共通の認識を作っていく上での基盤となると考えられます。

 

研究者たちの一般的な見解

 ここ15年の研究を見てみると、研究者たちはPCKを様々な構成要素からなる明確な知識のカテゴリーとしてとらえていました。具体的なPCKの構成要素としては、最初(1990年)にショーマンが提案していた「指導戦略の知識」と「概念の表現と理解」が調査されている研究が多く、ほとんどの研究は、教師の感情的属性をPCKの一部とは考えていませんでした。これは、前の記事で書いたPCKのこれまでの議論を反映しているように思えます。

 

研究者コミュニティで懸念される問題

 一方で近年の研究を見ていくとうかがえる問題もあります。

①多くの研究がPCKの構成要素を明確に定義していなかった。

②PCK構成要素に関する用語に一貫性がない。

 PCKに関する用語について、同じ言葉を違う定義・意味でとらえていたり、新しい用語がポンポン生まれていたりする現実もあります。今日もどこかで「俺が考えた専門用語」が生まれているのであれば、情報が錯綜することでしょう。

③研究内でコンセンサスモデルが正しく使用されていない。

 PCKを表したモデル(第1回PCKサミット発のやつ)を引用したのはいいものの本来の意味と違う形で使われているという研究もあるようです。コンセンサスモデルなのにコンセンサスが取れていない。うーむ。

 

まとめ

 近年の研究でも、研究者間でPCKの捉え方は違っており、違ったまま研究に使っていることが明らかにされています。PCKの多様な解釈は、一貫性の無い用語をたくさん産んだり、整合性の無い手法へとつながったりしてしまう恐れがあります。

 そこで、さらに洗練されたPCKモデルへ更新を行う必要があると、研究者たちは考えました。確かに2012年のコンセンサスモデルではPCKの構成要素やPCKの種類の関係の記述が不十分でした。

 また、研究者一人一人に求められることとして、どのようにPCKを解釈しているか、調査するPCKは宣言的な知識なのか、実践的な知識なのかなど、取り扱っているPCKの具体的な形態を明示するべきであることが考えられます。PCKについて明確な共有がなされて初めて、研究者全体で課題や成果について共通の理解を得ることができるのです。

 

今回は羅列的になってしまいましたので少し読みにくかったかもしれません。すみません。次の記事ではこれからのPCK研究を進めていく上で提案されていることを紹介できればと思います。

 

 

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