近年のPCKに関わる研究の動向と理科授業【その5】

この記事は、近年のPCKに関わる研究の動向と理科授業【その4】の続きとなります。

 

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最近の研究を振り返って

前回の記事で最近の研究を振り返るということを行いました。「PCKの解釈の仕方をみんなで揃えないとだめだよね!」ということが昔から言われていたにもかかわらず、まだまだ共通の考え方を持つうえでは課題が多いということを書かせていただきました。今回は、研究者がPCKについて共通理解を図るために提案されたモデルのことを書いていこうと思います。

 

これまでのPCKのモデル開発

 PCKをモデル(わかりやすく図に)にしようという取り組みも昔から行われてきたことでありました。共通理解を図るという課題に合わせて、世界中のPCK研究者が話し合いを行った第1回PCKサミットで開発されたモデルを一例として取り上げようと思います。2012年に行われた第1回PCKサミットでは以下のようなPCKモデルが開発されました。

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Berry, A., Friedrichsen, P., & Loughran, J. (Eds.). (2015). Re-examining pedagogical content knowledge in science education. New York, London: Routledge.から引用



 このモデルでは、それまでのモデルとは違う2つの工夫がされていました。

 1つ目はPCKの定義に教育実践(Classroom Practice)を追加した部分です。教育実践を追加することでPCKの研究者は、「私たちが考えているPCKは頭の中にある知識だけでなく、知識から生まれる振る舞いも入れて考えますよ。」ということを主張したということです。子供に物事を教えるためにはたくさんのことを知っていることも大事ですが、子供に合わせて知っていることの中から方法を選んでいくことも大事です。頭の中にある知識だけで考えられない部分を教育実践も入れることで補ったという感じでしょうか。

 2つ目は個人的なPCKとスキル(Personal PCK/PCK&S)とトピック固有の専門的知識(Topic Specific Professional Knowledge)を別のものであるという考え方を示したことです。ここに先生が2人いるとしましょう。2人とも「この子供は掛け算に苦手意識を持っている」という知識を持っていたとしましょう。同じ知識を持っているにもかかわらず、片方の先生は「この子が好きなアニメキャラクターを関連付けて計算を好きになってもらおう」とするかもしれません。もう片方の先生は「掛け算九九の歌っていうのがあったから子供と一緒に歌って楽しく覚えよう」と考えるかもしれません。このように同じ知識を持っていたとしても、個人の解釈の仕方や行動には違いが出てきます。PCKには人間個人レベルでとらえないといけない部分があるということを示したのがこのモデルの2つ目の工夫でした。

 しかし、このモデルに関しても問題はついてきました。2012年のこのモデルでは、それぞれの要素が何を表すのか、どこまで表すのかという図の中の要素の定義が曖昧だということが問題として挙げられました。例えば、先ほど挙げた「個人的なPCKとスキル(Personal PCK/PCK&S)」と「トピック固有の専門的知識(Topic Specific Professional Knowledge)」はどこで区別されるのでしょう。さっきは個人の行動として考えた「好きなものと関連付ける」「歌を用いて覚える」ということは、「子供が興味をあるものを使うと授業の参加率が上がる」「歌や語呂合わせを使うと単純な暗記よりも効果的」という教育の知識としてみなすこともできるかもしれませんよね。

 

第2回PCKサミットとリファインドコンセンサスモデル

 そこで、第2回PCKサミットでは、第1回PCKサミットで開発されたPCKモデルやこれまでの研究を基として、2017年にPCKの新しいモデル「リファインドコンセンサスモデル」を開発しました。ここには2つの目的がありました。

 1つ目は、教師や授業の現場に注目しながら、子供の科学学習の研究をPCKとの関係で位置づける方法を提供することでした。実際の教育の場が考慮に入るようにしたということですね。

 2つ目は、教師教育者(先生に教え方を教える人)のために、教師のPCKを伸ばす理論を考える上でのヒントとなるようにすることでした。

 どちらの目的とも関連していますが、つまり、リファインドコンセンサスモデルは、教育の実践の部分に注目しており、実践者の視点に立ったモデルになっています。

 次回の記事ではリファインドコンセンサスモデルを詳しく見ていこうと思います。

 

 

「金色の世界」のミュージックビデオが、本日3月12日(土)の23時よりYouTubeで公開スタート。ぜひチェックしてください。


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